晩秋の北海道、札幌に新たにサービス付高齢者向け住宅がオープンする。いわゆるサ高住だ。しかし、この「Gold Hills 平岸」が既存のサ高住と一味違うのは、あるトップアスリートの思いが詰まって作られていることだ。
「ここに住めば健康寿命が延伸する。入居することで元気になる。そういう場所を作りたかったのです。高齢者向けサービスとして食事と運動を提供します。その中でも運動については元スポーツ選手でなければ思いつかなかったようなものを提供していくつもりです。シルバー世代という言葉がありますが、より輝くゴールド世代を生きて欲しい。住宅の名前にはそういう願いを込めました。」そう話すのは、オーナーである清水宏保、言わずと知れたスピードスケート、長野オリンピックの金メダリストだ。
そもそも世界を制したトップアスリート、清水宏保が何故、50室をも有する高齢者住宅の運営という一大事業を行っているのか?素直な疑問をそのまま本人にぶつけたところ、非常に興味深く、示唆に富む話を聞くことができた。
「僕は元々、幼少期からですが喘息、腰痛がひどかった。それを治すため、コントロールするために始めたのがスケートです。スケートはもちろん僕にメダルを取らせてくれたものですが、それ以前にスケートを通じて、運動は人間に元気を与えるものだということを学びました。これが原点です。」
Gold Hills 平岸が、既存のサ高住と比べても運動指導に重きを置いている理由の一つがまずここにあった。
「医療とスポーツがもっと融合していくべきだと考えています。そういうなかで、アスリートの経験、知見というのは大いに役立つものだと思います。特にトップアスリートは尋常ではない数の怪我、リハビリを経験している場合が多いです。僕はこれをむしろ彼らの財産だと思っています。この経験を今度は人を救うことに生かすことができる。それは財産を地域に還元するということにもなると思うのです。自分がそう思うようになったのは引退後のことです。2010年に競技を引退した後、医療系の大学院に入りました。そのときに医療リハビリ現場を見て、これはスポーツリハビリが生かせる分野だと思いました。であれば、自分の経験をここで生かすことができるのではないかとも。」
そして清水の話は思わぬ方向に展開していく。
「この事業を始めたもう一つの目的はスポーツ選手のセカンドキャリア作りに貢献したいということです。スケートの現役時代にある中学生から、スケートをやっていても仕事にはならないでしょ、と言われたことがあります。実際に金メダルを取ってもそれだけでは将来、食べていけないというのがある意味、スポーツ選手の現実です。僕が現役を引退して指導者の道に進まなかったのは、こういった現状のなかでアスリートの出口を作りたいと考えたからです。そしてアスリートの経験が生かせるところ、医療とスポーツが融合する分野はまさにその一つです。自分がパイオニアとしてそういった事業を立ち上げることで直接的に引退後のアスリートの雇用に貢献できる。また、アスリートのセカンドキャリアのモデル作りにもなるのではないかと考えました。トップアスリートの引退後のキャリアとしてタレント、政治家という例は多くあります。しかし、僕はビジネスという分野で成功したかった。
「怪我、リハビリの経験はアスリートの財産でそれを地域に還元すれば、地域がアスリートに金をかける意味も出来てくる。」とこのビジネスモデルの意義を熱く語る清水に、アスリートの経験を生かしたサ高住での運動提供、即ちGold Hills 平岸が提供する運動の特徴を聞いてみた。
「端的に言うと導入機材にこだわりました。最近は高齢者向けにパワーリハビリという筋トレに重きをおく傾向があります。そのこと自体はよいと思いますが、現場を見て自分だったらこういう機材を使いたいというのはありました。トップアスリートの視点で機材を選ぶということです。機材にこだわることでリハビリの質を変えることができます。ワットバイクがよい例です。ワットバイクを介護用途に最初に取り入れたのは自分です(既存の「リボンリハビリセンターみやのもり」にて)。世の中に固定バイクはいくらでもありますが、アスリートがやっていることを高齢者リハビリにも生かすという視点を持つとワットバイクということになります。脚出力の左右バランスなどを運動しながら評価することができる。これは大事なことです。ユーザーもリアルタイムに自分の動きを視覚としてとらえることができます。運動、評価、脳トレ、といったことが同時に行われているわけです。」
ゴールド世代の夢が詰まったGold Hills平岸は、50室、52床で食事、運動の提供に加えて温泉が備わっている。訪問看護ステーション、定期巡回付きでもある。
清水宏保が経営する、株式会社two.sevenは既に前出のリハビリ型通所介護施設、フィットネストレーニングスタジオなど医療・福祉×スポーツをコンセプトに事業を成功裡に展開している。そして満を持してオープンするのがGold Hills平岸だ。
崇高な理念の下に出来上がった館のなかで、たくさんの人々がトレーニングに汗を流してそれぞれの健康なゴールド世代を謳歌する姿が想像できる。現在、本業である会社経営の他に、日本スケート連盟理事、北海道千歳リハビリテーション大学の客員教授も務める清水は将来的には統合医療にアスリートが関わっていくことが理想だと語る。
また、JOCの選手教育事業として各競技の現役ナショナルチーム選手への講演、意見交換も行っている。「自分が経験してきたことを現役アスリートに話したい。現役選手たちが各々の目的に向けた近道を見つける役に立てればという思いです。」
金メダリスト、清水宏保の思いと情熱、行動が高齢者のライフスタイル、そしてアスリートのセカンドキャリアに変革をもたらしていく。トップアスリートには世の中を変える力がある。清水はそのことを証明しようと走り続けているように見える。トップアスリートの存在意義そしてスポーツの価値。清水宏保の挑戦には多くの意味がある。
(当記事は清水宏保氏のご協力の下に作成されました。)
株式会社 two.seven http://27complete.jp/
Gold Hills 平岸 https://goldhills-hiragishi.jp/
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