競泳 東洋大学・平井チーム 新たな挑戦

2019年11月21日



競泳界において、バイクトレーニングの普及の兆しが見えてきました。 それまでバイクトレーニングが浸透していたとは言えないなかで、いち早くワットバイクに注目しトレーニングに取り入れたのは、数々の名選手を輩出した東洋大学・平井チームの平井伯昌監督です。

ワットバイクは下半身強化の目的で導入され、その効果としては「水中でのキック力向上」「水中での全身の能力を出し切ること」「スターティングブロックからの力強く早い飛び込み」などがあるようです。さらに、幼い頃から水泳を専門種目としている日本選手が海外選手に対して劣るフィジカルレベルを怪我や故障のリスクなく高めるために有効のようです。

ワットバイクを導入してから1年強が経過しました。未知の方法を取り入れることは選手も指導者も不安であると思いますが、色々な情報を集め試行錯誤を繰り返し、独自のトレーニング方法を作り上げていく平井監督の姿からトップ選手を輩出する理由を垣間見たような気がします。

来年に迫った東京オリンピックに向けてバイクトレーニングという新たな挑戦が功を奏することを期待したいです。

この度、スペインの2300mの高地で東洋大学・平井チームの選手たちを指導中の平井監督にワットバイク・トレーニングについてお話を聞くことができました。




- 昨年秋に、東洋大学・平井チームのトレーニングにワットバイクを導入されました。当時は水泳選手がバイクトレーニングを本格的に行う事例は多くありませんでしたが、バイクを導入された目的、或いは背景にはどのようなことがあったのでしょうか?

当時、東洋大学で指導する日本代表選手に対して、より一層、下半身の強化を行いたいと考えていました。それまで、ウエイトトレーニングやランニングなど、スイムトレーニング以外のドライランドでのアプローチは行なっていましたが、思うように強化が進まなかったことと、それらのトレーニングは膝や足首・腰部への負担が大きいので、他の方法を模索していました。また、イギリスの平泳ぎ世界記録保持者である、アダム・ピーティー選手がワットバイクを導入しているということも聞いていました。それから、近年、高地合宿を行っている、スペイン・シエラネバタで実際に他国の水泳選手や他競技の選手のバイクトレーニングを見て、バイクは関節や腰部への負担が比較的少なく、競泳につながる負荷を適切に与えられると考えるに至りました。そのようなことがバイク導入を決めた理由です。


- そのようにしてバイクトレーニングを採り入れた中で、特にワットバイクに拘ったのはどうしてでしょうか?

先ほども話しましたが、アダム・ピーティー選手初め、イギリスの水泳選手たちがワットバイクを導入しているということから、まずは私自身が国立スポーツ科学センターに設置してあるワットバイクを実際に漕いでみました。そこで、脚や臀部にかかる負荷が実際のサイクリングに近く、これは水中運動につながるのではないかと感じたことが一番です。



- 日本競泳界ではバイクトレーニングの前例があまりない中で、導入後は試行錯誤しながらプロトコルを作り上げてこられたことと思います。どのようにして、どのようなトレーニングを施してこられましたか?

まずはバイクトレーニングを導入している他国のコーチにトレーニング内容を聞きました。オーストラリアのマイケル・ボールコーチは、バイクトレーニングとスイムトレーニングをミックスしたものを行なっていると聞いたので、我々もプールサイドにワットバイクを移動させて同様なことを行いました。また、スイムトレーニングの前のウォームアップとして20分のプロトコルを考え、週に2回朝練習の前に行うようにしました。

そして、選手がバイクトレーニングに慣れた頃には、30秒間全力で漕いだ後、直後に50mの全力泳を行うような練習も導入しました。

高地トレーニングでは負荷の設定が難しかったのですが、それまでは30秒全力で漕ぐところを20秒間に変えてみたり、15秒全力30秒レスト15秒全力、に変えてみるなど、選手たちの反応をみながら練習内容をアレンジしていきました。



- 導入されてから1年ちょっとではありますが、現在までに水泳のパフォーマンス向上につながったと思えるところはありますか?

ウエイトトレーニングで培った筋力をワットバイクの高ケイデンスで鍛えることによって、水中でのキック力が高まったと思います。具体的には、細かく速く持続してキックする能力が高まりました。また、30秒や1分間などの時間を全力で漕ぐ練習により、水中で全身の能力を出し切ることがよりできるようになったと選手からは聞いています。実際に私もそう感じています。

また、ハムストリングスや臀部の筋肉を高ケイデンスで短時間鍛えることによって、スターティングブロックからの飛び込みもより力強く早く行えるようになったと感じています。


- それは素晴らしいです。ところで、選手たちの反応はどうでしょうか?どのような感じで取り組まれていますか?

選手たちは導入直後から意欲的です。特に大橋悠依選手や萩野公介選手は効果をすぐに感じていました。

バイク直後のスイムトレーニングでは下半身の疲労があるにも関わらず、キックが自然と動きやすくなると言っています。片足ずつキックを動かす背泳ぎや自由形だけではなく、平泳ぎやバタフライのキックにも有効です。今年、初めて世界選手権の代表になった白井璃緒選手や、先日、平泳ぎで日本記録を樹立した青木玲緒樹選手も効果を感じて大変意欲的に取り組んでいます。



― 選手たちが好成績を出していることもあり、水泳界でワットバイクの普及が始まりました。最後に、競泳選手がバイクトレーニングを行うメリット、また、デメリットとして感じることがあれば教えてください。

競泳選手の中には幼い頃から他競技にあまり取り組むことがなく、水泳を早い段階から専門種目として行なっている者が多いです。他国の選手のトレーニングを見ると水泳以外にもいろいろな競技を行なったり、練習の休日にも体を動かしたりすることによるフィジカルレベルの高さを感じることが多いです。そういったことを踏まえた上で、怪我や故障のリスクなく心肺能力の向上や持久力の向上からパワーアップまで、ワットバイクは有効なトレーニング手段だと感じます。また先ほど話しましたように、スタートやターンの蹴りなどにも効果があるように感じます。

これはデメリットとは思わないのですが、バイクで追い込みすぎると予定していたスイムのトレーニングプログラムを行えなくなることはありました。しかしそれは指導者である私の勉強不足からくるものであって、より良い導入方法を考えていけば良いのではないかと思います。

東京五輪に向けた2019年秋の練習は、バイクトレーニングとスイムトレーニングを一旦分けて行い、バイクでの強化が十分に進んだ後にスイムとのミックストレーニングを行うように考えています。ウエイトトレーニングの後に、6秒間マックスのパワートレーニングも慣習化してきました。今後はトレーニングを進化させることとともに、既に今年の日本選手権から行っているのですが、出場する競技会の会場にワットバイクを持ち込み、レースのウォームアップにも積極的に使用していくつもりです。



【選手写真提供】

東洋大学・平井チーム

スペイン、シエラネバダ合宿にて