スイミングクラブや大学、高校など水泳の現場でワットバイクが使用されるケースが増えてきました。
ラグビー、サッカー、陸上競技など走るスポーツにおいて導入が進んだ要因のひとつとしてオフフィートトレーニングの重要性というものがありました。では、オフフィートのスポーツである水泳で使われる背景にはどのようなことがあるのでしょうか。
エリート競泳選手の使用事例として海外に目を向けると、イギリスではアダム・ピーティー選手がリオ五輪の2年前からトレーニングに取り入れていました。ピーティー選手は下肢の筋力強化を目的にワットバイクを導入しましたが、それ以外にも得られるいくつかの効果からワットバイクは彼の陸上トレーニングのメインになったと当時話しています。ピーティー選手はその後、2016リオ五輪、2020東京五輪の100メートル平泳ぎで金メダルを獲得、世界記録も樹立しました。
日本国内では2018年に東洋大学水泳部・平井チームの平井伯昌監督がワットバイクの機能に着目して指導するチーム、選手のトレーニングへ導入したことが始まりです。
導入当初は競泳選手の使用前例がほとんどない中、トップ選手のパフォーマンス向上に活かすために情報収集、試行錯誤とともにユニークなプロトコル、使用方法を考えだして実行に移していきました。
その後もスタッフ、選手が一体となり経験を積み重ねて現在は東洋大学チームのトレーニングルーティンとして定着しています。
平井監督に東洋大学の状況や水泳選手のバイクトレーニングについて現在の考えを話して頂きました。
平井伯昌 監督 岡田真祐子 コーチ
― 東洋大学ではワットバイクをトレーニングの様々な局面に取り入れています。どのような目的で行っているのでしょうか?
幼い頃から水泳に親しみ、比較的早い段階で一つの競技に絞っている選手が多いと思います。大学に入学した選手の中にはすでに競技歴が10年を超える選手も多くいます。バイクトレーニングを導入する主たる目的は専門競技に必要な能力をさらに伸ばすために、他の競技の要素を入れていくいわゆるクロストレーニングの要素を考えてのものです。特にパフォーマンスのピークが近い選手には、トレーニングの刺激を変える事で、メンタル面や意欲の向上にもつながると考えます。
― 日々のスケジュールの中で選手たちはいつバイクトレーニングをしているのですか?
今年に関しては、メイン練習の次の朝練習前に入れています。
― バイク導入期から色々な使い方をされてきましたが現在はどのような形で使われていますか?
セットはいろいろ変化させていこうと考えていますが、20分前後のウォームアップから徐々に負荷を上げ、6秒程のスプリントから10秒、20秒や1-2分程のハイケイデンスもしくはハイギアのセットを織り交ぜています。勿論タバタプロトコルや30秒マックス4分レストなどのセットも行なっています。
― 競泳のパフォーマンスに対しての効果をどのように見ていますか?
今の所はバイクセットの中のワット数の確認などに留まっていますが、スイムとの関連性を専門家の方と評価していきたいと考えています。
― 選手たちの感じ方はどうでしょうか?
導入直後は疲労感を訴えますが、トレーニング方法の変化には喜んでいます。キックが入りやすくなる、高い強度のスイム練習に耐えられる様になったなど、反応は様々です。
体力のない選手からは、スイム練習が頑張れないなどの訴えもあります。
― ここまで数年間、バイクをトレーニングに入れてきて課題になっていることはありますか?
スイムもバイクも身体に重力がかかりません。抗重力のためにジャンプトレーニングやランニングなども必要だと思っています。ハムストリングスやヒップなど体の後ろ側の筋肉が優位になりますが、スイムの中でアンバランスを生じない様に、動作を観察する必要は当然あると思います。
― 最近は全国各地のスイミングクラブでもワットバイクの普及が進んでいます。
ジュニア層からマスターズの方など幅広い年齢に合っていると思います。身体に一つの競技の刺激だけ入れるにではなく、ランニングやウォーキングも含め、色々な刺激を入れることが、パフォーマンスを高めるだけでなく、健康的に日常生活を過ごすことにも繋がるかと思います。
― そうした方々へも含めてバイク使用について他にアドバイスはありますか?
高強度トレーニングだけではなく、Zwift などのアプリと組み合わせ、エンデュランストレーニングを行うのにもお勧めです。
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