今年の全国高校ラグビー大会を制した東福岡高校。その栄光の陰には、スタンドオフ、高本とわ選手の大怪我と壮絶なリハビリを経た驚異的に早い復帰があった。そして彼の復帰が如何にチームを勇気づけたかを前回の記事中で藤田監督が証言している。
しかし何故、高本選手はかくも早く試合に復帰できたのか。これについては選手本人の努力はもちろんのこと、手術後のリハビリトレーニングを主導した佐藤義人氏(SATO.SPORTS)の存在なしには語れない。 佐藤氏は次のように話す。
©SATO.SPORTS
「体を治すという行為においては、体がその機能を最大限に引き出せる環境にないと時間がかかります。まずは、そのためのシステムをどのように整えるかということがポイントになります。例えば膝であれば、まずは筋肉、関節のアラインメントと神経系を本来あるべき状態にすることが重要です。それが正しくないままトレーニングを続けても一連の動作のなかで使うべき筋肉を使うという回路が崩れているわけですから、筋肉や関節捻れなどのトラブルが発生します。当然、治るまでの時間も長くなります。」
佐藤氏は更にこう続ける。
「そして、このアラインメントを正しく整える作業において、ワットバイクが非常に重要な役割を果たします。選手にワットバイクを漕いでもらえば、Polar View機能によりどこの部位にエラーが出ているのかが解ります。それにより筋肉、関節を本来あるべき位置に戻しながら動かしてほしい筋肉をきちんと動かすことができるわけです。遮断されているものを呼び起こし繋げるということがリハビリでは大事ですから、これができることは大きいです。」
「膝のアラインメントが整った中で自分の筋肉をコントロールすることは繊細な作業です。例えば外側広筋が過剰に発達している人はそこに力が入りやすく筋肉のアライメントが崩れがちです。そうしたことの対策にもワットバイクのPolar Viewは有用です。」
1か月半におよぶ佐藤氏とのリハビリを終えて高校の練習に復帰した高本選手を見た藤田監督が、その体つきの変化に驚いたというが、それを具体的に示すものとして彼の大腿部周径データがSATO.SPORTSに残されていた。
8/18(開始時) 9/30(最終日)
膝上10cmの周径 50cm 60cm
膝上15cmの周径 55cm 62.5cm
©SATO.SPORTS
ワットバイクの機能、特性を存分に活用して苦しみの中にいるアスリートを救い続ける、佐藤氏は一体いつから、どのようなきっかけでワットバイクを使うようになったのだろうか。素朴な疑問を投げかけてみた。
「2015年の春にラグビー日本代表のトレーナーに就任しました。エディ―・ジョーンズHC体制としてワールドカップに臨んだ年です。そしてその宮崎合宿でワットバイクに初めて接しました。自分でも試してみて、これは有効だと判断してすぐに自分の治療院に導入しました。そこから私のやり方は完全に変わりました。」
それにしてもここまでワットバイクを活用して著しい成果を挙げ、多くのアスリートから絶大な評価を得ている治療家を他に見ない。Polar Viewは万人に対して平等に同じレベルの情報を与えるものなので、やはり佐藤氏は卓越した分析眼、理解力を有しているのだろう。もちろん長年の努力、経験に裏打ちされたものであることは疑う余地もない。
佐藤氏のリハビリトレーニングによって再起したアスリートがその後も同氏のトレーニングを継続して受けている事例も数多い。どのようなトレーニングをトップアスリートたちに施しているのであろうか。
「基本はリハビリと同じです。Polar Viewを活用して正しい動作を促すことが大原則です。そのために正しいフォームで漕がせるようにしています。サドルの高さ、前後位置には拘ります。私のトレーニングでは「足裏、ハムストリングスが辛い」と感じる選手が多いです。トレーニング内容は専門競技で必要な動きに直結するものです。走る競技の選手であれば、インターバルが多いですが、回転数や負荷の設定もそうですし、ランに直結するための漕ぎ方をさせています。走っていないのにランに戻った時に走りの数値が上がるということが通常起きています。」
©SATO.SPORTS
怪我により競技から離れざるを得なくなったアスリートが過去も今も大勢いる中、佐藤氏のような優れた治療家が一人でも増えることを願ってやまない。その佐藤氏の処方と指導の下、わずか半年の間に絶望の淵から歓喜へと駆け上がった、高本選手の事例は今後、同じような境遇に置かれたアスリートの希望になるだろう。
全国高校ラグビー大会を制覇した、東福岡高校ラグビーフットボール部。優勝までの道のりには数えきれないドラマ、ストーリーがあったに違いない。その中でも高本選手の大怪我は本当に不幸な出来事だ。ただ、そのことにより出会い共に苦しみ戦った、名治療家と若きアスリート、そして名指導者が創り出した物語が今後のスポーツ界における一つの道しるべとなることを願いたい。
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