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10月31日~11月1日に伊東競輪場で行われたガールズケイリンで小林優香が予選、決勝を通じてすべて1着という完全優勝を果たした。
長い間、日本代表として東京五輪を含む国際大会で活躍をした自転車競技から離れて競輪に専念することになった小林優香にとって、2023年は思いがけず苦しい年になった。
筆者は昨年9月から小林優香のワットバイクトレーニングに本格的に介入している。主な目的を最大瞬間出力およびRFD(力の立ち上がり速度)と高出力持続の向上に定めている。セッションは原則的に選手の自宅で行われるので、小林本人とはメール等を介してのデータのやり取りを基本に、まず筆者からメニューを提示して、小林はトレーニング後にセッションデータと主観的強度など感想を当方にフィードバック、筆者はそれを分析して次のメニューを提案するというサイクルを繰り返している。
メニューはいくつかの基本パターンで構成されているので小林から送られてくるデータはトレーニング進捗状況の確認のみならず、その時々のコンディションを把握する観点からも有用である。
筆者は今年の3月から小林から送られてくるデータに少し異変を感じ始めていた。
具体的には、一定時間における高出力維持の再現性が低下してきたこと、また動作面では左右出力バランスに顕著な乱れが生じることが多くなっていた。
時を同じくして、レースのパフォーマンスも下がってきているように見えたが、小林本人もセッション中の腰の違和感を訴えるようになってきた。
その後、事態に好転は見られず、小林は7月上旬に腰の手術をすることに踏み切り、8月上旬までは治療、リハビリに専念することになる。
ワットバイクのトレーニングはリハビリを兼ねて術後10日目に再開した。暫くは衰えた持久力を回復させるプログラムを中心に据えた。無理のない強度でのインターバルから始めて課題をクリアすれば設定強度(ワット)を漸増させていった。
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小林優香は8月中旬にレース復帰、復帰戦ではキャリア初めての最下位を経験するなど暫くは本来のパフォーマンスを発揮できない苦しみの中にいながらも前向きに地道にトレーニングに取り組んでいた。
10月中旬からワットバイクの軽い抵抗負荷で行う3秒Maxでの最大出力に確かな向上が見られるようになった。筆者からは今回の伊東競輪場でのレースに向かう前の小林には「明らかに上昇局面に入った」と伝えた。
小林優香のフィジカル向上策が順調に進んでいることはワットバイクのデータから疑う余地はない。競輪は非常に奥深い競技でレースの成否には様々な要素があるものの、今回のレースでその一端を証明したと言える。
しかし、その一方で、ワットバイクのデータは小林優香のフィジカル、特に持久力にはまだまだ大きな伸び代があることを示している。小林優香はアスリートとしてのIQが高く、自分のトレーニングをマネジメントする能力を有している。ワットバイクトレーニングプログラムも都度話し合い、相互合意によって作られている。筆者はワットバイクが彼女の潜在能力を本当に引き出していくのはこれからだと見ている。
小林優香は来年、再び競輪界の女王に返り咲くことができるのか。是非、ガールズケイリンというスポーツを通してご注目ください。
Wattbike Japan 大木 満
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