2013年9月に武田豊樹選手がイギリスのWattbike Laboを初めて訪れたときの話を前回(2017/7/12 共創の原点VOL.2)ご紹介しました。長い一日の中では実際にワットバイクに乗ってドリル、ワークアウトを行うとともに、話し合いに多くの時間を費やしました。
武田選手が今まで行ってきたトレーニングのレビューや同日の実技セッションを通してスポーツ科学者、エディー・フレッチャーが感じたこと、発見した課題などをお互いにテーブルの上に出し合って意見交換を行った結果、両者はまず8週間、計画的なプログラムに沿ってワットバイクのトレーニングを試行することで合意しました。
そしてプログラムの骨子はその場で関係者が十分に話し合って作られていきました。
帰国後はワットバイクの高強度セッションを週に2回設けることにして、それ以外のセッションは過度に追い込まないこととしました。一週間のスケジュールは状況にもよりますが概ね次のような考え方で進めることにしました。
日 実走
月 AM 実走 PM ウエイト
火 ワットバイク(1)
水 休み
木 AM 実走 PM ウエイト
金 AM 実走 PM ワットバイク(2)
土 実走
また、ロード練習の距離は60km程度として心拍数120~160を目安に行うこと、ワットバイクでリカバリーを行う場合は20~30分をレベル1/90rpm (150W前後)で行うことなどが話し合われました。
各セッションのメニューはすべて20分のウオームアップ(共創の原点VOL.2ご参照)で始まります。メインメニューは下記の通りでした。
Week 1
(1) 5秒 × 4 (レスト2分30秒)Seated Level 6 Max rpm
5秒 × 4 (レスト2分30秒)Standing Level 8 Max rpm
(2) 15秒オン/45秒オフ × 10 L5 140rpm (オフ 90rpm)
Week 2
(1)5秒 × 5 (レスト2分30秒)Seated L6 Max rpm
5秒 × 5 (レスト2分30秒)Standing L8 Max rpm
(2) 10秒オン/50秒オフ × 10 L5 150rpm (オフ 90rpm)
Week3
(1) 5秒 × 6 (レスト2分30秒)Seated L6 Max rpm
5秒 × 6 (レスト2分30秒)Standing L8 Max rpm
(2) 5秒オン/55秒オフ × 10 L5 160rpm (オフ 90rpm)
Week4
(Week1 と同じ)
Week5
(1) 5秒 × 4 (レスト2分30秒)Seated L7 Max rpm
5秒 × 4 (レスト2分30秒)Standing L9 Max rpm
(2) 2 × (15秒オン/45秒オフ × 10) L5 140rpm (オフ 90rpm)
Week6
(1) 5秒 × 5 (レスト2分30秒)Seated L7 Max rp
5秒 × 5 (レスト2分30秒)Standing L9 Max rpm
(2) 2 × (10秒オン/50秒オフ × 10) L5 150rpm (オフ 90rpm)
Week7
(1) 5秒 × 6 (レスト2分30秒)Seated L7 Max rpm
5秒 × 6 (レスト2分30秒)Standing L9 Max rp
(2) 2 × (5秒オン/55秒オフ × 10) L5 160rpm (オフ 90rpm)
Week8
テスト 5秒ピークパワー(L6)+ 200m (L8)
このように最初のフェーズは一切、持久系のワークアウトはありません。レッグスピードの向上に主眼を置きました。それはその当時の武田選手に最も必要とされた要素で、彼本来のレッグスピードを引き出しながらギアを上げていくと同時にケイデンス維持能力も向上させるという取り組みでした。
ギア(空気抵抗レベル)はスプリントセッションでは6、8から始めて7,9へと上げました。5秒のショートスプリントで狙ったのはレッグスピードとパワーの向上です。また、レッグスピードセットでは、レベル5で回転数を秒数に合わせて140から160までの対応を求めました。レベルと回転数はレッグスピードとパワーの組合せ、そして武田選手がレースで使用するギア比を考慮して設定しました。20分のウオームアップは武田選手が(今でも)最も嫌がるパートですが、これもレッグスピード向上が目的で実際に効果をあげています。
武田選手は2013年10月から8週間、真摯にこのプログラムに取り組みました。当時のことを次のように回想しています。
「すべてが初めてだったので、このトレーニングをしたらどうなるという確信めいたものは正直ありませんでした。ただ、トレーニングを計画的に行うことの必要性を痛感していた時期だったので、その点において好転すると思っていました。週に2回、決まった日にワットバイクを入れることで、それを一つの目標に週間の計画を立てることができました。実走とは違う部分がありますが、比較的に疲労を残さずに高強度トレーニングを行えるということもワットバイクの長所でした。また、そのときの疲労レベルを含めた自分のコンディションを自分でチェックできるという点でも有用だと感じました。」
武田選手のすべてのワットバイクセッション内容はExpert ソフトウエアとインターネットを通じてWattbike日英の関係者間で共有、分析されました。セッションごとのパフォーマンス向上には目を見張るものがあり、エディー・フレッチャーを中心とするスタッフ側は確かな手応えを感じていました。
武田選手は数か月ぶりに臨んだ復帰戦、2014年1月1日~3日に東京オーバル京王閣で行われたF1シリーズで予選、準決勝、決勝と全て1着で完全優勝を果たしました。
そして、武田選手と私たちのジャーニーは次のステージへ進んでいきます。
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