いよいよ開幕まであと11か月と迫ってきたミラノ・コルティナ2026では今回も日本スピードスケート陣の活躍が期待されている。
そのスピードスケート競技の選手たちがロードバイクやインドアバイクを使ったトレーニングを行っている様子がしばしばメディアで紹介されている。実際に北海道と長野県にあるスケートのナショナルトレーニングセンター「競技別強化拠点」には合計で30台を超えるワットバイクが設置されている。
スピードスケート選手たちは何故、バイクトレーニングに多くの時間を費やしているのか?また、どのようなトレーニングを行っているのか?
1998年の長野五輪で金メダルと銅メダル、2002年のソルトレークシティ五輪で銀メダルを獲得した、清水宏保さんにスケート選手のトレーニングについて自身が行っていたことを含めて話して頂いた。
©清水宏保スピードスケート選手として成功するために必要なフィジカル能力の要素は?
「まず、高い乳酸値を出せる能力です。回復能力の高さも重要です。瞬発系の能力も必要ですが、これはパン!といった瞬間的な力発揮ではなく持続する等速性の能力です。下半身の筋力、バネはもちろんで、臀部、ハムストリングス、大腿四頭筋などを全面的に強化する必要もあります。」
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スピードスケートという競技において、フィジカルとスキルが占める割合はどのくらいか?
「私の考えでは50:50くらいですかね。技術が上がってスピードも上がれば、その分また上の体力が求められるし、もっと上のテクニックを求めるにはより上の体力が必要という関係です。」
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氷上練習と陸上でのフィジカルトレーニングはどのような関係性か?
「氷の上の練習だけではフィジカルを上げていくことはできません。技術的に上手くなればなるほど、体はずるいから覚えて効率よく滑ってしまいます。それから、テクニックの部分として氷上では感覚を研ぎ澄ませていたい。追い込んでやると技術が崩れて悪い癖が身につきます。それよりも氷上ではフレッシュな状態でスキルを重視したトレーニングを行い、たまに追い込むということが望ましいです。疲労した状態では氷の上に乗りたくない、特にシーズン中に入っていくほどそうですね。氷の上では感覚を研ぎ澄ませておいて、トレーニングとしては別のところで追い込むということです。感覚を崩したくないので。」
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スピードスケート選手はどのような陸上トレーニングを行っているのか?
「バイクは大きな要素です。他には登坂走、これはスキー場とか傾斜を駆け上がるもので秒数や距離で管理します。あとはウエイトトレーニングや自重を使ったジャンプ、ドライスケ―ティングなどです。最近の選手たちがやっているかは分かりませんが、1970年代から行われている、低い姿勢でスキー場を登っていく超高強度トレーニングもありました。バイクは毎日漕ぐ選手もいるくらい重要なパートです。トップ選手たちは海外遠征にもロードバイクを持っていきます。最近は現地にワットバイクなどがあるようにもなってきましたが、追い込みトレーニングにもクーリングダウンにも使います。ハードなトレーニングの後には必ず30分から1時間のイージーライドをします。」
©清水宏保
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何故、バイクトレーニングが重要なのか?
「大前提としてスケート選手にとって高い乳酸値を出せる能力は重要です。そのベース作りにバイクトレーニングは欠かせないということです。例えば、自分は現役時代のトレーニングでは22ミリモル出すことを目標にしていましたが、こういった高いレベルの乳酸値を毎回のトレーニングで出せるかというとそれはできない。その領域に持っていくためにはトレーニングに対しての準備や実行時の集中力が必要になります。そういった過程を経て、もし毎回出せるようになれば、それは自分の能力が向上したとみなすことができます。バイクトレーニングはこういった状態を導くための絶対条件です。
それから、どの競技もそうであるようにスケートのレースでも再現性が求められます。しかし実際には同じようなことをして同じパフォーマンスを出せる選手が勝てるかというとそうではありません。同じ状況下で違う仕事ができる、同じ仕事をしているようでしていない、つまり環境によってパフォーマンスの出力を変えることができる能力を鍛えないといけない。その感覚を研ぎ澄ます必要がある。そのためのベーストレーニングとしてバイクは有効です。2~3時間の持久走から60~80秒の中間領域、そして7~10秒の瞬発領域へとトレーニングは段階を経て移行していく必要がありますが、バイクトレーニングを活用するとこれが非常にやり易いのです。」
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ワットバイク(インドアバイク)とロードワーク(屋外)の違いは?
「安全面です。ワットバイクのほうが絶対的に安全です。それから、ロードワークは風の抵抗、巻き上げの影響で追い込めないということがあります。ロードバイクでは、どんなにギアをかけても追い込めません。フレーム、ハンドル、クランクすべてが柔らかいからです。脚も100%ベルトで固定できるわけではありません。ピストでは追い込めるかもしれませんが。ワットバイクでは圧倒的に追い込めます。フレームもしっかりしていて安定的です。ロードワークのよさは気分転換も含めてイージーライドに適しているところだと思います。
©清水宏保
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清水さんは現役時代にどうしていましたか?
「自転車トレーニングは屋内も屋外も両方やっていました。私はローラーもやっていたしトラックにも入ったりしていました。当時はまだワットバイクがありませんでしたから(笑)」
*次回は清水宏保さんが現役時代に行っていたバイクトレーニングの考え方を具体的なメニューも含めて詳しくお話しされます。
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