前回の記事では、スピードスケート選手のフィジカルトレーニング全般、その中におけるバイクトレーニングの位置づけなどについて清水宏保さんに見解をお聞きした。
今回は同氏がオリンピック金メダルを獲得した現役時代に行っていたバイクトレーニングについて具体的なメニューとともに考え方を話して頂いた。
©清水宏保
- 何のためにバイクトレーニングを行っていたか?
「高い乳酸値を出せる能力がレースに勝つためのフィジカル要件として重要と考えていました。そのためのベース作りをバイクで行っていたわけですが、主に乳酸をどんどん生成させるタイプのトレーニングを行っていました。定量的には血中乳酸濃度22ミリモルを出すことを目安として高強度トレーニングを行っていました。車に例えるならば高速域に耐えられるボディ、耐えられるエンジンを作らないといけないですよね。体も同じでそのために普段から乳酸を出し続ける、そして循環させる能力を高めるためのトレーニングをしていました。」
- 主なトレーニングメニュー ~2002年ソルトレークシティ五輪
「次の3パターンのインターバルトレーニングを行っていました。
5セットすべて全力ではなく、1本目はイージーで全力の7~8割で行い、2本目は追い込みの準備、3本目にピークが来るようにしていました。または状況によっては2本目にピークを持っていくこともありました。3本でオールアウトしますので、そこからは回復度合いを見て、レスト時間を微調整していました。30分くらいまで伸ばすこともありました。
大事なのは、この高強度/乳酸トレーニングをどのくらいの頻度で行うかということでした。例えば週に複数回行うとなると、これは精神的なダメージが激しく1回のセッションの質が落ちます。私は2週間に1回、上記のうちいずれかのセッションを行うようにしていました。そして、このセッションが2週間に1回あるという前提でトレーニングスケジュールを組みました。例えば、日曜日は休み、月曜日はイージーなら火曜日か金曜日にこのセッションを持っていくという形です。それはレースの間隔にも似ていました。レースは大体2週間おきに行われて、レースからの回復も2週間、最低でも1週間を要していました。
考え方としては、乳酸を20ミリモル以上出す高強度トレーニングを行った後、10~13日間は乳酸を出すトレーニングは避けるということです。その間は体の回復と心の準備に充てました。但し同時に週3回のウエイトトレーニングは入れていました。そうすることにより、次の高強度トレーニングに緊張感を持って臨むというメリハリができます。このように精神面と肉体的にアップダウンを作ることによってレースへのピーキングもうまくできるようになりました。」
©清水宏保- レース期のバイクトレーニング
「上記はオフシーズンに行ったトレーニングメニューです。
レース期は高校生のとき以来、次のようなメニューをルーティンにしていました。
1分 90~100rpm(全力の7割程度)/1分 50~60rpm(easy)
30分間継続インターバル
これを毎日やるのか、30分のイージーを行うのか、1日おきに行うかなど、変化をつけてやっていました。」
- 主なトレーニングメニュー ~1998年 長野五輪
「長野五輪まではタバタプロトコルをすごくやっていました。このときも先ほどお話しした考え方で2週間に1回行っていました。但し、ハード期には週に1回を2週間続けて行いました。これはプロトコル通り20秒オン、10秒オフの高強度インターバルですが、回転数とワット値を固定設定して8セットでオールアウトすることを基本にしていました。但し、継続していくうちに負荷に慣れてくるとステージ(強度)を上げていきました。また、8セットを20分のレストを挟んで2回にする、或いは負荷を上げて5セットを3回行うなど変化をつけてやっていました。ステージを上げる際は私のやり方ですが、回転数は90rpmで固定して負荷を上げる方法を取っていました。当時はワットバイクが存在していなかったので別のトレーニングバイクで行っていました。トレーニングに変化をつけていくことは体への刺激や気持ちのマンネリ化を防ぐ意味でとても大事です。そのような考え方がベースにあり、長野五輪後はトレーニングに変化をつけるため、また、新しいことを試したい気持ちもあり、前述の40秒、70秒、90秒のインターバルにシフトしていきました。長野五輪後の4年間はコンディションが一番良かったと思います。かなり体を仕上げたとも感じていましたし、能力も高かったです。そういう意味では、一連のトレーニングは成功しました。今、当時の写真を見てもかなりエグい姿勢で滑れているな、と感じます。長野の前からトレーニングは自分で考えて行っていましたが、長年にわたり沁みついたものがベースにありました。」
©清水宏保- 取手競輪場でのバンクトレーニング
「余談ですが、長野五輪後の1999年から一時期、取手競輪場のバンクで実走トレーニングを行っていたことがあります。このときは同級生の武田豊樹さん(スケート五輪選手から競輪選手に転身。2014年KEIRINグランプリ優勝)や自転車競技の五輪選手2名と一緒に専門的なトレーニングを行いました。週に一度、筑波山を登りにも行きました。このときの経験は自分のバイクトレーニングをより高いレベルへと導いてくれました。」
*次回は清水宏保さんがトレーニングを効果的にするために大事だと考えていることなどについてお話しされます。
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